緊急情報 


日本臨床検査標準協議会(JCCLS)
「標準採血法ガイドライン(第1版)」


 日本臨床検査標準協議会(JCCLS)では昨年の採血管に関する論議を受け、本年2月に臨床検査医学会をはじめ日本臨床衛生検査技師会、日本看護協会、日本医療器材工業会真空採血管WG等を構成員とする「検討委員会」を設置し、標準採血法について検討してきました。その結果、7月1日に「標準採血法ガイドライン(第1版)」が策定されました。これに関しては、すでに本日朝5時のNHKニュースにて報道されておりますが、表面的な報道であることは隠せません。これは、昨年の採血管に関する報道により各施設において混乱を招き被採血者(患者)に不安を与えたという経緯もあり、同じ経過をたどることは避けなければなりません。各施設において実際に採血を担当している技師として被採血者(患者)への対応については十分な配慮が必要ですが、今回のガイドラインにおいても残念ながら”現場に即した実施方法”が明瞭とはいえません。 この「標準採血法ガイドライン(第1版)」は基本的には、当会が昨年公開した「静脈採血推奨法Ver.1.0=真空採血管を用いた採血手技とそのポイント=」と大きく異なるところはなく、今回のガイドラインは”試案”である点を考慮し、最終的なガイドラインの策定に向かって現場の意見を纏める必要があります。現時点では、本ガイドラインはあくまでも各施設での採血手技の方向性を示す参考とし、ポイントをよく考えて、被採血者(患者)に十分な説明(出来ればプリントを用い)を行い混乱を招くことのないよう手技の統一を図ることを要請します。


「標準採血法ガイドライン(第1版)」のポイント(ガイドライン抜粋)

1.標準的な採血の手順を検討するにあたってのポイント
 1)被採血者及び医療技術者の安全 
 2)正しい検査結果の保証
 3)日本の医療事情を考慮した採血現場における実用性
 4)入手可能な医療器材の性能
 5)経済的効率
 
※ ガイドラインによると、今回は試案(=NCCLS=におけるTentative Guidelineに相当)として公表し、一定期間を経て改訂を行い最終的なガイドラインとするとしています。

2.採血手順
1)
採血者の安全のため手袋を用いるが、原則として使い捨てとする。しかし、ラテックスが一般的だがアレルギー等に備えニトリルやポリエチレンなどの材質も準備する。
2)
真空採血管は、逆流による細菌汚染を防ぐため、内部が滅菌されたものを用いる。
3)
ホルダーは、採血管に接続可能なもので、ホルダーに付着した血液を介した患者間での交差感染を防ぐため患者ごとに交換するものとして、原則として使い捨てとする。
4)
駆血帯は、ゴム製のもの、血圧計用のカフ、ベルクロタイプのものなど。血液で汚染された場合は消毒または廃棄するものとし、採血管を抜いた状態で駆血帯を外す。
5)
採血については、検査データのプライバシーの保護等について説明し、採血の同意を得ることが望ましく、質問を受けた場合の看護師、検査技師の回答する範囲については施設ごとにその役割分担を明確にしておく必要もある。
ガイドラインによると、ホルダーについては患者ごとにホルダーは交換し、原則として使い捨てにする。これは、ホルダーに付着した血液を介した患者間での交差感染を防ぐためである。ホルダーに付着した前の患者の血液が一旦患者血液とともに採血管内に混入した後、逆流して患者体内に戻る場合に起こりうるが、量的にも希釈されて極めて微量になるため、感染が成立する可能性は低いと推測される。しかしながら採血手順が適切に行われない場合なども考慮に入れると、ホ ルダーが再使用された場合、交差感染の可能性を完全に否定することは出来ないとしている。
ガイドラインによると、採血間内部の滅菌およびホルダーのデイスポーサブル化を行い、逆流の危険性を減らす手技を励行すれば駆血帯を外すタイミングを最後の採血管を抜いた後としても逆流による患者への危険は最小限度に抑え得るものと思われるとしている。
ガイドラインによると、採血管が差し込まれたまま駆血帯をはずすと、圧力差により採血管から血管内への逆流が起きることが考えられるので行ってはならない。また、駆血が1分を超えると、血液の濃縮などにより検査値の変動などが起きる危険性があるため駆血は1分を超えないように注意することが必要としている。


※ 採血法ガイドライン”Q and A”(抜粋)によると、
Q:
採血管内の滅菌化により細菌汚染は生じないため、それ以上の逆流防止の対策は不要ではないか?
A:
滅菌化により細菌汚染の可能性はほぼ無視しうるレベルに保つことができると考えられるが、ホルダーに付着した血液を介した患者間での交差感染や、内容物の逆流によるアレルギー、毒性などは起こりうるので、逆流防止に努めることは必要である。(交差感染についてはホルダーのデイスポーサブル化によって防止可能である。)
Q:
ホルダーから採血管を外した後に駆血帯を外した場合、逆流する血液の量は実験等によれば10マイクロリッター以下という極めて少量であるとの報告もあり、これによる感染のリスクはないのではないか?
A:
生体における逆流量に関する確たるエビデンスは得られておらず、また手技による間違いが起こり得ることも考慮に入れると、逆流予防について出来る限りの対策を講じておくことが重要であろう。
Q:
ホルダーは使い捨てにするかわりに、消毒して用いればよいのではないか?
A:
消毒剤として次亜塩素酸ナトリウム、グルタールアルデヒドなどが用いられえることが多い。これらの薬剤による消毒では事前の洗浄による蛋白除去の程度により消毒の効率にばらつきが出る可能性があり、そのような一次洗浄の質が保証される必要がある。また消毒に対するホルダーの耐久性は必ずしも保証されていない場合があり、ホルダーと採血針の接続が緩んで針が患者に深く差し込まれる事故などが起こりうる。したがって、ホルダーを消毒して再利用する場合には、これらの点にも十分配慮する必要がある。さらに、消毒の場所や設備は確保されていない施設においては、消毒剤による患者・医療従事者の健康被害に留意すべきである。
Q:
デイスポーザブルのホルダーは、現在国内の生産体制が整っておらず、供給不足で入手できない可能性がある。このような場合はどうすべきか?
A:
これについては、関連業界にできるだけ早期に供給体制を整えるように協力を求めていく。供給が安定するまでの期間、デイスポーザブルのホルダーが入手できない場合には、少なくとも患者ごとにホルダーは交換し、消毒や逆流を防止する採血手技の励行にて対応する。また、入院患者においては患者ごとにホルダーを割り当てて一人の患者については同じホルダーを用いるのも一法であるが、ホルダーの管理には注意を要する。このようにホルダーを使い捨てにしない場合、駆血帯をはずすタイミングについては上記のようなメリット・デメリットとともに、患者の血管の太さや採血量などを考慮した上で決める。また、翼状針を使うのも一法であるが、逆流による交差感染の危険性は理論上残る。
注射器による採血に切り替える場合には、特に採血者の針刺し事故の防止に注意する。
Q:
逆流防止法を正しく行えば、ホルダーのデイスポーザブル化は不要ではないか?
A:
医療の手技には間違いは起こりうるものであるから、二重三重の防止策によりリスクを減らす努力をすべきである。ホルダーのデイスポーザブル化はこれを行えば交差感染の危険はゼロとなるのであるから、交差感染の防止策として最良の手段である。

Top Page へ


(c) Copyright 2004 Japanese Association of Medical Technologists. All rights reserved.